「速筋や遅筋っていったい何?」
「速筋と遅筋の違いって何?」

筋トレのことなどを調べていくと「速筋(そっきん)」「遅筋(ちきん)」という言葉を目にすることがあると思います。

「速筋」とは、名前のとおり「筋肉の収縮スピードが速い筋肉」です。

逆に「遅筋」は、速筋よりも「筋肉の収縮スピードが遅い筋肉」です。

ただ、速筋と遅筋は、そのほかにもさまざまな違いがあるんです。
そこで今回は、理学療法士のわたしが、速筋と遅筋の違いについて、図やイラストを使って詳しく解説していきます。

1.速筋と遅筋の違いとは? 医学書にもとづいて解説

速筋と遅筋を深く知るために、まずは筋肉の全体像からみていきましょう。

ヒトには、大きく分けて「骨格筋(こっかくきん)」「心筋(しんきん)」「平滑筋(へいかつきん)」という3種類の筋肉があります。

骨格筋・心筋・平滑筋の特徴

一般的にイメージされる筋肉(骨格筋)のほかに、心臓や血管、内臓にも筋肉があるんですね。

そして、今回のテーマである「速筋」「遅筋」は、骨格筋に分類されます。

速筋と遅筋は骨格筋の一部

イラストで表すと、以下のようになります。

骨格筋のイラスト

骨格筋は筋線維が束になったもの(※「筋束(きんそく)」ともいいます)の集合体です。
その筋線維には実は2種類あって、それが「速筋」「遅筋」なんですね。

速筋と遅筋は、同じ筋線維の仲間ですが、それぞれ構造やはたらきが違います。

それでは次の章で、さらに詳しく速筋と遅筋についてみていきましょう。

1-1.速筋とは? 収縮スピードが速い筋肉

まずは速筋について解説していきます。

冒頭でもお伝えしたように、速筋とは「収縮スピードが速い筋肉」です。
また、速筋は白っぽい色をしているため、別名「白筋(はっきん)」とも呼ばれています。

そして速筋は、筋肉に含まれているタンパク質「ミオシン」の違いによって、主に以下の2種類に分けられます。

速筋の種類

・タイプIIa線維
・タイプIIx線維

このように、速筋はさらに2種類に分かれるのですが、それぞれ特徴が少しずつ違います。
以下の表に、その特徴をまとめました。

速筋の特徴

先ほどもお伝えしたとおり、速筋は基本的には白っぽい色をしています。
しかし、タイプIIa線維は、赤色のミオグロビンがほどほどに含まれているため、中間色のピンク色になっていると考えられています。

ミオグロビンとは、筋肉に含まれているタンパク質です。

余談ですが、タイプIIa線維は一時期「ピンク筋ダイエット」としても話題になりました。

過去に「ピンク筋」について解説した記事があるので、興味のある方はぜひご覧ください。



そして、筋肉の色のほかには、持久力にも違いが出てきます。
タイプIIa線維は持久力に優れていますが、タイプIIx線維は持久力は低いです。

つまり、タイプIIa線維は「疲れにくい筋線維」であり、タイプIIx線維は「疲れやすい筋線維」なんです。

では、なぜ同じ速筋でもタイプによって持久力に違いが出てくるのでしょうか?

それは「毛細血管」「ミトコンドリア」などの量に違いがあるからです。
これら2つは「ATP(アデノシン三リン酸)」を作るうえで、重要な器官だといわれています。

ATPとは、筋肉がはたらくためのエネルギー源だと思ってください。
車でいうとガソリン的な存在です。

ガソリンが空っぽだと車が動かないのと同じで、ヒトもATPがないと筋肉を動かし続けることができませ

筋肉に蓄えられているATPはごくわずかであり、数秒で無くなります。
そのため、1日中カラダを動かすためには、ATPを体内で作り続ける必要があるんです。

そんなATPをたくさん作り続けるためには、「酸素・糖質・脂質」という材料が必須。
その材料は「毛細血管」によって、筋肉のなかにある「ミトコンドリア」という場所に運ばれます。

そして、最終的にミトコンドリア内でATPが大量生産されるんです。

つまり、毛細血管が多いほど、たくさんの材料(酸素・糖質(グルコース)・脂肪(脂肪酸))を運べるともいえます。

そして、毛細血管と同様に、ミトコンドリアの数も多いほど、たくさんのATPを作れるんです。

ちょっとむずかしい内容ですよね(^^;)
なので、「毛細血管」「ミトコンドリア」が多いほど、筋肉を動かすためのエネルギー(ATP)をたくさん作れる!ということだけ憶えておいてください。

このような理由から、毛細血管やミトコンドリアが多い「タイプIIa線維」は、たくさんATPを作れるため、持久力があるといえるんですね。

一方「タイプIIx線維」は、毛細血管やミトコンドリアが少なく、ATPの生産効率が悪いため持久力が低いんです。

さて、速筋について学んだら、お次は遅筋について説明していきます。

1-2.遅筋とは? 収縮スピードは遅いが、疲れにくい筋肉

遅筋とは、速筋よりも「収縮スピードが遅い筋肉」です。
また、速筋が白っぽい色をしている一方、遅筋は赤色をしています。
そのため、遅筋は別名「赤筋(せっきん)」とも呼ばれています。

ちなみに、遅筋は「タイプI線維」ともいわれています。

なぜ赤色なのかというと、遅筋は筋肉に含まれている「ミオグロビン」の量が多いから。

先ほども少し触れましたが、ミオグロビンとは筋肉のなかにあるタンパク質です。
ミオグロビンの役割は、血液が運んできた酸素を受けとり、その酸素を筋肉のなかで貯めたり、ミトコンドリアへ運んだりすることです。

そんなミオグロビンは、赤色をした鉄イオンを含んでいます。
そのため、ミオグロビンをたくさん含んでいる遅筋は、赤くみえるんですね。

さて、遅筋のそのほかの特徴は、以下のとおりです。

遅筋の特徴

遅筋の大きな特徴として、持久力が高いことが挙げられます。

なぜなら、先ほどもお伝えしたとおり「毛細血管」や「ミトコンドリア」の量が多いため、筋肉のエネルギー源である「ATP」をたくさん作ることができるからです。

ちなみに遅筋は、「脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)」という背中の筋肉や、ふくらはぎの筋肉である「ヒラメ筋」など、主に姿勢を保つ筋肉に多く含まれています。

というのも、1日中姿勢を保つためには、長い時間筋肉がはたらく必要があるからです。

このように遅筋は、筋肉の収縮スピードは遅いですが、持久力が高いため疲れにくいという特徴を持った筋肉なんですね。

1-3.速筋と遅筋の特徴まとめ|比較表

ここまで、速筋と遅筋についてそれぞれ説明してきました。

速筋と遅筋の特徴を比較した表が、以下になります。

速筋と遅筋の違い
・遅筋(タイプI)は、筋肉の収縮が遅いけど、疲れにくい!
・速筋のタイプIIaは、筋肉の収縮が速くて、しかも疲れにくい!
・速筋のタイプIIxは、筋肉の収縮がとても速いけど、疲れやすい!


このように憶えておいてくださいね。

速筋と遅筋の違いについては、ご理解いただけたでしょうか?
お次は、速筋と遅筋の割合について解説していきます。

2.速筋と遅筋の割合|自分で測ることはできるの?

そもそもですが、筋肉は速筋(もしくは遅筋)だけで構成されているわけではありません。

どの筋肉も、速筋と遅筋がごちゃまぜになっていて「この筋肉は割合的に速筋(もしくは遅筋)が多いかな」というような構造になっています。

イメージとしては、以下のような感じです。

筋線維組成
ちなみに、各筋肉における速筋と遅筋の割合のことを「筋線維組成(きんせんいそせい)」といいます。

このように、速筋と遅筋の割合は、筋肉によって変わってきます。

たとえば、先ほども少し触れましたが、姿勢を保つ筋肉である「脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)」「ヒラメ筋」は、“遅筋”が多く含まれています。

というのも、姿勢を長時間保つためには、持久力のある遅筋が多くないといけないからです。
速筋ばかりだと、すぐに疲れちゃいますもんね。

逆に、ふくらはぎの筋肉である「腓腹筋(ひふくきん)」などは、ダッシュなど瞬発力を必要とすることがあるため、収縮スピードの速い“速筋”が多く含まれています。

「ヒラメ筋」と「腓腹筋」は、どちらもふくらはぎの筋肉なのに、それぞれで速筋と遅筋の割合が違うのはとても興味深いですよね。

さらにいうと、速筋・遅筋の発達具合には個人差があります。
たとえば「マラソン選手は遅筋が多い」「100m走の選手は速筋が多い」などです。

トレーニングによって発達具合が変わってくる可能性もありますが、今のところは遺伝的な要素が強いと考えられています。

さて、「自分って速筋と遅筋の割合はどれくらいなんだろう?」と知りたい方もいるのではないでしょうか?
次の章では、自分で速筋と遅筋の割合を出す方法を紹介します。

2-1.自分で速筋と遅筋の割合を調べる方法

速筋と遅筋の割合を調べる方法は、基本的に以下の3つです。

速筋と遅筋の割合を調べる方法

① 筋バイオプシー法(※筋肉の一部を切り取って調べる方法)
② MRI
③ 50m走と12分間走の成績から計算する方法

①と②は、実際にカラダにメスを入れたり、特殊の機械を使ったりするため、実施するにはハードルが高い検査です。

しかし、この3つのなかで1番手軽にできる方法が、③の50m走と12分間走の成績から計算する方法」

とはいえ、大人だと50m走をやるにも「計ってくれる相手・場所・気力」をそろえるのは結構大変ですよね(笑)。

こちらの方法は、正確な割合を出すことはできませんが、おおよその速筋の割合を計算式で出すことができます。(※ちなみに太ももの筋肉が対象です)

その計算式がこちら。

速筋の割合を出す計算式

速筋の割合(%)=69.8xー59.8
※ x=50m走における速度(m/秒)/12分間走における速度(m/秒)

「計算めんどくさそう…」という方は、以下のサイトで自動で計算してくれますよ。

実際にわたしも試してみたのですが、上記の計算式と同じ結果が出ました。

今からは「計算式に当てはめて値を出したい」という方に対して、実際に例をあげながら速筋の割合を出してみます。

まずは、先ほどの式を思い出してみましょう。

速筋の割合を出す計算式

速筋の割合(%)=69.8xー59.8
※ x=50m走における速度(m/秒)/12分間走における速度(m/秒)

それでは「50m走が “7秒”」「12分間走が “3000m”」と仮定して、速筋の値を求めていきます。

まずは「x=50m走における速度(m/秒)/12分間走における速度(m/秒)」を計算します。

・50m走における速度(m/秒)→7.14m/秒(50m÷7秒

 

・12分間走における速度(m/秒)→4.17m/秒3000m÷720秒(12分))

そして、いま計算した50m走と12分間走の速度を「x=50m走における速度(m/秒)/12分間走における速度(m/秒)」の式に入れ、xを求めます。

そうすると、以下の数字が出てきます。

x=7.14(m/秒)/4.17(m/秒)1.71(xの値)

xの値が「1.71」と出ました。

そして最後に、最初にお伝えした以下の式に、xの値「1.71」を入れます。

速筋の割合を出す計算式

速筋の割合(%)=69.8xー59.8
x=1.71

速筋線維の割合(%)=69.8(1.71)ー59.8 → 59.6(%)

上の結果のとおり、速筋のだいたいの割合は「59.6%」となります。

そして遅筋の割合を求めるときは、「100(%)− 速筋線維の割合(%)」をすれば遅筋の値が出てきます。

つまり「遅筋の割合=100(%)− 59.6(%)→40.4(%)」です。

なので、「50m走が7秒」「12分間走が3000m」の場合、速筋は「59.6%」・遅筋は「40.4%」という結果になります(あくまで大体の値です)。

ちなみに、先ほどお伝えした自動計算してくれるサイトでは「速筋60 % 」「遅筋40%」と出ました。
やはりサイト内の計算システムは合っているといえます。

ぜひ参考にしてください。

3.コラム:どうして年を取るとすばやい動作がむずかしくなるの?

どうして年をとるとすばやい動作がむずかしくなるの?

誰しも、年を取ることで少しずつ筋力は衰えていきます。
なぜなら、筋線維(速筋や遅筋など)は細くなり、かつ量も減っていくからです。

ちなみに、40〜50歳を境に、筋力低下が目立ってくるといわれています。

そして、年を重ねるにつれて「前よりもすばやい動作ができなくなってきたなという方も、なかにはいるのではないでしょうか?

もしかしたら、速筋が衰えてきたことがひとつの原因かもしれません。
速筋の特徴は、筋肉の収縮スピードが速いことでしたよね。
つまり「年をとることで速筋が衰えたため、速い動きがむずかしくなってきた」という可能性があるんです。

さらにいうと、遅筋よりも速筋の方が衰えやすいといわれています。
なので、普段から意識的に速筋を鍛えることで、タイプII線維の衰えを予防していくことが大切なんですね。

4.まとめ

速筋と遅筋、それぞれの特徴やはたらきを理解することはできましたでしょうか?

最後にもう一度、速筋と遅筋の違いについてカンタンにおさらいします。

速筋と遅筋は骨格筋の一部
速筋と遅筋の違い

・筋線維が束になったものが骨格筋(筋肉)

 

・筋線維には「速筋」と「遅筋」に分けることができる

 

・速筋はさらに「タイプIIa」と「タイプIIx」に分けることができる

 

・速筋の「タイプIIa」は、筋肉の収縮が速く、かつ持久力がある(疲れにくい)

 

・速筋の「タイプIIx」は、筋肉の収縮はもっとも速いが、持久力はない(疲れやすい)

 

・遅筋(タイプI)は、筋肉の収縮は遅いが、持久力はもっとも高い(疲れにくい)

ぜひ、この記事があなたの速筋と遅筋の理解に役立てれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考文献

・GERARD J,TORTORA/BRYAN DERRICKSON(著), 大野忠雄ほか(訳):トートラ人体の構造と機能 第2版.pp139-140 p325,丸善株式会社,2007.
・国分正一,鳥巣岳彦(監):標準整形外科学 第10版.pp61-63,医学書院,2008.
・奈良勲(監),吉尾雅春(編):標準理学療法学 専門分野 運動療法学 総論 第2版.pp42-48,医学書院,2010.
・麻見直美,川中健太郎(編):栄養科学イラストレイテッド 運動生理学.p23,羊土社,2019.
・坂井建雄(監),町田志樹(著):PT・OTビジュアルテキスト専門基礎 解剖学.pp140-141,羊土社,2018.