「腹式呼吸のやり方って、こんな感じであってるの?」
「いろんなサイトの情報を見たけど、どのやり方が正しいのかわからない・・・」

腹式呼吸をやろうとして、このように思ったことはありませんか?

腹式呼吸は、トップアスリートや経営者、政治家など、呼吸の大切さを知っている方がよく実践している呼吸法です。

腹式呼吸は、リラックス効果や、リンパの流れをうながすなどのメリットがあるため、理学療法士の私も、臨床で多くの方にお伝えしています。

しかし、腹式呼吸をやってもらうと、正しくできていない方がけっこう多いのです。

そのため今回は、実際に医療現場でもお伝えしている、腹式呼吸の正しいやり方をご紹介していきます!

それではまいります!

1.腹式呼吸とは? 胸式呼吸との違いも解説

腹式呼吸とは、カンタンにいうと以下の呼吸法です。

腹式呼吸のやり方
  1. 口から息を「5秒」かけて吐きながら、おなかが自然にへこむのを感じる
  2. 鼻から息を「3秒」かけて吸いながら、おなかを膨らませる

この章では、腹式呼吸や胸式呼吸のくわしいメカニズムを解説していきます。
「腹式呼吸の練習方法だけを知りたい!」という方は、『2.腹式呼吸ができない人必見! やり方やコツを画像で解説』へお進みください。

1-1.腹式呼吸はおもに横隔膜を使った呼吸法

「腹式呼吸は知っているけど、ぶっちゃけどんな呼吸法なの?」

誰もが一度は耳にしたことがある腹式呼吸ですが、正しい知識を知ってみえる方は、意外と少ないのではないでしょうか?

腹式呼吸の特徴は、「横隔膜(おうかくまく)」をしっかりとはたらかせるため、深い呼吸ができるようになることです!

「そもそも横隔膜って一体なに?」「なんで横隔膜が深い呼吸と関係があるの?」とギモンに感じる方もいると思うので、これから図を使ってカンタンに解説していきますね。

横隔膜

いきなりグロテスクな画像ですみません。(^^;)

それでは、まずは横隔膜についてご説明します。
横隔膜という名前から、「何かの膜なのかな?」と勘違いする方が多いのですが、実は筋肉なんです。お肉でいうとハラミの部分ですね。

横隔膜はちょうどみぞおちくらいにあり、息を吸うときに、とても重要な役割をはたします!

それではお次に、なぜ横隔膜が深い呼吸と関係があるかをご説明していきますね。

横隔膜の動き

上の図の左側をみていただくとわかりますが、息を吸うと、横隔膜はおなかをプレスするようにぐっと下がります。

そうすると肺は、横隔膜にひっぱられるように縦へと大きく広がり、息がたくさん入ってきます。

しかし、逆に、息を吸うときに横隔膜がしっかりと下がらないと、肺は広がりにくく浅い呼吸となりやすいのです。

つまり、深い呼吸をするためには、息を吸うときに、横隔膜がしっかりと下がることが重要。

そして、横隔膜をじゅうぶんにはたらかせる方法が、ズバリ「腹式呼吸」なんです!

冒頭でもお伝えしましたが、腹式呼吸の方法をおさらいしましょう。

横隔膜とおなかの動き
  1. 口から息を「5秒」かけて吐きながら、おなかが自然にへこむのを感じる
  2. 鼻から息を「3秒」かけて吸いながら、おなかを膨らませる

腹式呼吸では、息を吸うときにおなかを膨らませます。

なぜかというと、息を吸ったときに横隔膜が下がることで、内臓がおへそ側へ押し出されるためです。

一方、息を吐くときは、おなかはへこんでくると言いました。息を吐くときの横隔膜の動きは、息を吸うときとは逆で、伸びたゴムが元の形に戻っていくように、横隔膜は自然と上がっていきます。

そのため、内臓も元の位置に戻ることで、膨らんだお腹もへこんでいく、というわけです。

ちなみに、腹式呼吸は入浴中や就寝中など、リラックスしているときによくしているといわれています。

では続けて、腹式呼吸とセットでよく聞くワード「胸式呼吸」についてご説明していきます。

1-2.胸式呼吸はおもに胸の筋肉を使った呼吸法

胸式呼吸とは、おもに胸のまわりの筋肉を使っている呼吸法を指します。

「次は自分の面接の番だ・・・あ〜ドキドキする」
「うわっ、仕事なのに寝坊しちゃった! どうしようどうしよう(汗)」

このように、緊張したり焦ったりなど、感情が乱れたときによくしている呼吸です。

胸式呼吸の特徴は、胸を中心に膨らませる呼吸のため、おなかあたりまで大きく動かす腹式呼吸と比べて、浅い呼吸となりやすかったり、呼吸回数が増えたりすることです。

それではこれから、胸式呼吸のメカニズムについてご説明していきますね。

胸式呼吸では、先ほどご説明した横隔膜の動きもありますが、腹式呼吸に比べると動きは小さいです。

そこで胸式呼吸では、「外肋間筋(がいろっかんきん)」という筋肉をよく使います。

外肋間筋

胸式呼吸のときは、息を吸うと、肋骨に付いている外肋間筋がおもにはたらき、胸が広がります。このとき、肺も一緒に伸ばされることで息が入ります。

逆に、外肋間筋がゆるむと、膨らんだ胸がもとに戻ることで、息を吐き出すことができるのです。

腹式呼吸でも外肋間筋ははたらきますが、胸式呼吸の方がよりはたらく、というイメージを持っていただけるとよいかと思います。

1-3.腹式呼吸と胸式呼吸の違い|胸式呼吸は悪い呼吸法なの?

さて、これまで「腹式呼吸」と「胸式呼吸」の違いについてご説明してきました。

それをまとめたのが、下の表になります。

腹式呼吸 胸式呼吸
特徴 ゆっくりとした深い呼吸 速くて浅い呼吸
吸うとき おもにおなかが膨らむ おもに胸が膨らむ
吐くとき おもにお腹がへこむ おもに胸がちぢこまる
おもに使う筋肉 横隔膜 外肋間筋
使われやすい場面 リラックスしているとき
【例】
・お風呂に入っているとき
・眠っているとき
カラダを動かしているとき
感情的なとき(強いストレスを感じているとき)
【例】
・運動中
・泣いているとき

上の表で2つの呼吸法を見くらべると「胸式呼吸って悪い呼吸法なんだな」と思うかもしれません。

しかし「腹式呼吸」と「胸式呼吸」、実はどちらも大切なんです!

そもそも普段の呼吸は、腹式・胸式それぞれ混ざりあっておこなわれています。

カラダには、そのときの状況によって「よし、いまは胸式呼吸を優先的にしよう」などのように、自動的に調整しているシステムがそなわっているからです。

たとえば、胸式呼吸が必要な場面でいうと、運動中をイメージしてください。
全速疾走をしたあとは、膝に手をつきながら「ハッ、ハッ、ハッ」と呼吸しますよね。

胸式呼吸

運動中は、体内の酸素が不足しやすいため、酸素をなるべく早く、かつ多く取り入れる必要があります。その場合は、深く息を吸う腹式呼吸より、胸式呼吸の方がすばやく酸素をカラダに取り込むことができるんです。

このほかにも、胸式呼吸が生活の中で必要な場面はたくさんあります。

つまり、胸式呼吸と腹式呼吸は、それぞれ必要な場面でしっかりとおこなえていることが重要なんです!

とはいえ、現代はストレス社会なので、気づかないうちに胸式呼吸のような浅い呼吸ばかりをしている方がとても多いです。

なので、腹式呼吸をぜひマスターし、普段から意識的におこなうことで、リラックスしたり、呼吸を整えたりすることをオススメします!

それでは次の章では、腹式呼吸の正しいやり方について解説していきますね。

2.腹式呼吸ができない人必見! やり方やコツを画像で解説

これから、正しい腹式呼吸の方法やポイントを、画像を使ってご説明していきます。

腹式呼吸の基本的なやり方から、おなかの動きがわかりにくい人のための方法までご紹介しています。

誰でもカンタンにできちゃうので、ぜひ実践してみてくださいね。

2-1.寝ながらできる腹式呼吸のやり方|この方法ができたらOK

今からお伝えする方法が、腹式呼吸の基本的なやり方です。

以下でご紹介するのは寝ながらの方法ですが、こちらをマスターしたら、あとは立ったり座ったりしているときも、同じやり方で腹式呼吸をするだけです。

寝ながらできる腹式呼吸の練習法
【方法】
① あお向けになり、膝は立てておきます。右手は胸の上、左手はおなかにおきます
② 口から息をゆっくりと「5秒」かけて吐きながら、お腹が自然にへこんでくるのを感じます
③ 鼻から息をゆっくりと「3秒」かけて吸いながら、お腹を膨らませます
④ ②と③を繰り返します

【回数】
・まずは10回を目安にしてください
・慣れてきたら、体がリラックスしたり呼吸が整ったりしたら終了します
※気分が悪くなったら、すぐに中止してください!

ポイント・全身の力を抜いて呼吸をしましょう
息を吸うときに「お腹→胸」の順、もしくは「お腹と胸が同時」に動いていればオッケーです
息を吸うときに「胸→お腹」の順で動いてしまう場合は、うまく腹式呼吸ができていない可能性があります
おなかと胸に手をおく理由は、腹式呼吸がちゃんとできているかを自分で確認するためです。

2-2.座りながらできる腹式呼吸の練習法|おなかが動かしにくい方向け

今からご紹介する方法は、先ほどの姿勢ではおなかの膨らみがわからない、という方向けです。

カラダを前かがみにすることで、重力によって臓器が下垂(かすい)するため、お腹が膨らむ・へこむ感覚が分かりやすくなりますよ。

座りながらできる腹式呼吸の練習法
【方法】
① イスに座り、テーブルに両肘をつきます
② 口から息をゆっくりと「5秒」かけて吐きながら、お腹を軽くへこませます
③ 鼻から息をゆっくりと「3秒」かけて吸いながら、お腹を膨らませます
④ ③と④を繰り返します

【回数】
・まずは10回を目安にしてください
・慣れてきたら、体がリラックスしたり呼吸が整ったりしたら終了します
※気分が悪くなったら、すぐに中止してください!

ポイント・全身の力を抜いて呼吸をしましょう
息を吸うときに「お腹→胸」の順、もしくは「お腹と胸が同時」に動いていればオッケーです
息を吸うときに「胸→お腹」の順で動いてしまう場合は、うまく腹式呼吸ができていない可能性があります

2-3.四つばいでできる腹式呼吸の練習法|1番カンタンな方法

「これまでの2つの方法をやってみたけど、まったくおなかの動きがわからない!」という方は、四つばいとなって腹式呼吸を練習することをオススメします。

四つばいでは、先ほどご紹介した2つの方法よりもさらに臓器が下垂するため、お腹の動きをより感じやすくなります。ぜひ試してみてくださいね。

四つばいでできる腹式呼吸の練習法
【方法】
① 四つばいとなります。頭は下げていても構いません
② 口から息をゆっくりと「5秒」かけて吐きながら、お腹を軽くへこませます
③ 鼻から息をゆっくりと「3秒」かけて吸いながら、お腹を膨らませます
④ ②と③を繰り返します

【回数】
・まずは10回を目安にしてください
・慣れてきたら、体がリラックスしたり呼吸が整ったりしたら終了します
※気分が悪くなったら、すぐに中止してください!

ポイント・全身の力を抜いて呼吸をしましょう
息を吸うときに「お腹→胸」の順、もしくは「お腹と胸が同時」に動いていればオッケーです
息を吸うときに「胸→お腹」の順で動いてしまう場合は、うまく腹式呼吸ができていない可能性があります

3.腹式呼吸の3大メリット|副交感神経をはたらきやすくしよう

「腹式呼吸をすると痩せる!」
「腹式呼吸をすると声量が上がる!」

このようなことを聞いたことはありませんか?

しかし残念ながら、医学書や文献にも、腹式呼吸がダイエットやボイトレに効果があるという信頼できる情報をみたことがありません。

そのため以下では、医学書にも書いてある「腹式呼吸で期待できる3大効果」をご紹介していきます。

3-1.リラックス効果が得られる

腹式呼吸の大きなメリットは「副交感神経(ふくこうかんしんけい)」がはたらきやすくなることです。

副交感神経とは、自律神経とよばれる神経の1つ。ちなみに、自律神経には交感神経もふくまれています。

自律神経(交感神経+副交感神経)の特徴を、以下の表にまとめました。本当はまだまだありますが、今回は一部をご紹介しますね。

交感神経 副交感神経
特徴 活動している日中や運動中に、活発にはたらきやすい カラダがリラックスしているときに、活発にはたらきやすい
呼吸 速くなりやすい ゆっくりとなりやすい
心拍数 増えやすい 下がりやすい
血圧 上がりやすい 下がりやすい
消化液の分泌量 減りやすい 増えやすい
胃腸の動き にぶくなりやすい はたらきやすくなる
唾液の分泌量 減りやすい 増えやすい

このように、腹式呼吸をすることで副交感神経がはたらくと、カラダのリラックス効果が得られたり、ゆっくりとした呼吸ができたりするようになります。

実際に、日々の肉体労働で疲れがたまっていた20代の男性に、腹式呼吸をお伝えしたところ「朝の目覚めがとてもスッキリしました!」「ゆっくりした呼吸を意識してから、心拍数が落ち着くようになりました!」というお声をいただいたこともあります。

「ああ、今、自分疲れているな・・・」と感じたときは、腹式呼吸をして、心とカラダをリラックスさせてあげましょう!

ちなみに、交感神経と副交感神経は、どちらかにかたより過ぎてもダメなんです。この2つの神経が、バランスよくはたらくことが理想とされています。

3-2.内臓のはたらきが活性化しやすくなる

副交感神経がうまくはたらくと、内臓が活性化しやすくなるため、胃もたれや便秘などの問題を解決する糸口となります。

たとえば、胃腸には以下のような効果があるといわれています。

【胃】
副交感神経がうまくはたらくと消化液が増え、胃の消化が活発になります。

【腸】
副交感神経がはたらくと消化液の分泌が増え、食べ物の吸収が活発になり、便秘の解消や腹痛の予防につながります。

3-3.リンパ液の流れをうながす

「リンパの流れが悪いとカラダがむくむ」ということは、聞いたことがあると思います。

実は、腹式呼吸をすることで、横隔膜の近くにある「乳び槽(にゅうびそう)」と呼ばれるリンパ液が通る部分が刺激され、リンパ液をスムーズに循環させる手助けになるのです!

ぜひ腹式呼吸をして、カラダを内側からキレイにしてあげましょう!

リンパ液は下水道のようなもので、体内の老廃物や余分な物質を、カラダの外へ出してくれる役割もあります。そして、カラダにとってよくない異物や細菌を、血管に入れないようにする免疫機能もそなわっているため、リンパのはたらきはとても重要なんですよ。

コラム:腹式呼吸でウエストは引き締められるの?

「腹式呼吸でインナーマッスルを鍛えてウエストを引き締めよう!」

雑誌やテレビで、このように聞いたことがあるかもしれません。

しかし結論からいうと、腹式呼吸だけでは、ウエストを引き締めるというエビデンス(根拠)はありません。

そもそも腹式呼吸の目的は、横隔膜をしっかりとはたらかせることで、ゆっくりとした深い呼吸をおこなうことです。

確かに、腹式呼吸により横隔膜を動かすことで、おなか周りのインナーマッスルが連動してはたらいたり、腹圧が高まったりします。

とはいえ、腹式呼吸だけをおこなっても、そもそも目的が違うため、おなかまわりの筋肉を落とすような効果はうすいといえるでしょう。

4.まとめ

いかがでしたでしょうか?
腹式呼吸の正しい方法をおわかりいただけたでしょうか。

腹式呼吸は誰でもカンタンにでき、カラダをリラックスさせる効果がある呼吸法です。

しかし現代は、なにかとストレスがたまりやすい世の中。そのため、おどかすわけではありませんが、意識をしないと呼吸が浅くなりやすくなります。

呼吸が浅くなる→ストレスがたまる→呼吸が浅くなる

このような負のループにおちいり、「いつまでたっても疲れが取れない・・・」という、心身ともにツライ状態が続いてしまうかもしれません。

そんなときは、寝る前に5分でもいいので、ぜひ腹式呼吸をして心とカラダを休ませてあげてください!

すると、

呼吸が深くなる→ストレスが解消できる→疲れが取れる

このような好循環に変わり、もっと楽しく、もっとスッキリとした気分で1日を過ごせる可能性が高まります。

アメリカの国防総省「ペンタゴン」には、「呼吸を制するもの、勝負を制す」という言葉があります。
たかが呼吸、されど呼吸。
ぜひ、日々の呼吸を大切にして、よりよい生活を送っていただけるとうれしいです。

今回の記事が、1人でも多くの方々のお役に立てますと幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

【参考文献】
・高橋仁美,宮川哲夫:呼吸リハビリテーションのプログラム,コンディショニング.
・高橋仁美,宮川哲夫,塩谷隆信(編):呼吸リハビリテーション第2版.中山書店,2008,p120‐131
・居村茂幸(監修),高橋哲也,間瀬教史(編著):ビジュアル実践リハ 呼吸・心臓リハビリテーション改定第2版.羊土社,2015,p51-53
・パトリックマキューン(著),桜田直美(訳):トップアスリートが実践 人生が変わる最高の呼吸法.かんき出版,2017
・久保田武美ほか:腹式呼吸、胸式呼吸、逆腹式呼吸をはじめとした呼吸運動様式の比較.医道の日本,2013年8月号,p141-146
・久保田武美ほか:呼吸法についての正しい知識.医道の日本,2014年3月号,p130-138