「全国各地にいる、素敵なセラピストの存在や魅力を知ってもらいたい!」
このような想いから生まれたのが、本企画『あなたの町の素敵なセラピスト』。

予防コネクト編集部がこれまで出会ってきた「技術」「人柄」「想い」3拍子そろった素敵なセラピストをインタビューし、魅力に迫っていく企画です。
第2回は、愛知県名古屋市北区でサロンを営んでいる「Physio fit(フィジオ・フィット)」の大野有三(おおの・ゆうぞう)さんにお話を伺いました。
大野さんは、股関節とひざ関節の痛みに対する施術を得意としており、アスリートやサラリーマン、主婦など、さまざまな方がPhysio fitへと足を運びます。
今回は、大野さんが施術で大切にしていることや、セラピストを目指した理由、そして今後のビジョンなどをお聞きしました。
大野 有三(おおの・ゆうぞう)さん

目次
“股関節”と“膝関節”の施術が得意なコンディショニングサロン「Physio fit(フィジオ・フィット)」

――Physio fit(フィジオ・フィット)ではどのようなサービスをおこなっているのですか?
大野さん
メインは、股関節やひざ関節にトラブルを抱えた方に対し、施術やセルフトレーニングの指導などをおこなっています。
そのほかは、スポーツでケガをしないようなカラダ作りをサポートしたり、競技のパフォーマンスを高めるお手伝いもしています。
――来院される方は、やはり股関節やひざ関節にトラブルを抱えている方が多いのですか?
大野さん
そうですね。特に、痛みを改善しようと整形外科や接骨院に通っていたけれども、なかなか症状が緩和しなかった方がよく来院してくださいます。
あとは、トライアスロンやウルトラマラソン、フルマラソンに出場するようなアスリートの方が、カラダのケアや競技のパフォーマンスアップなどを目的に利用されることも多いです。
――股関節とひざ関節をメインのサービスとした理由を教えてください
大野さん
世の中には、股関節やひざ関節のトラブルを抱えている方がとても多いからです。
変形性股関節症は、約120万人〜510万人の方が罹患(りかん)しているという報告があります。そして、変形性ひざ関節症の人数にいたっては、なんと約2,500万人にのぼるともいわれています。
つまり、変形性股関節症と変形性ひざ関節症の人数を合わせると、約3,000万人前後。実に日本人の約4人に1人が、この2つの関節疾患に罹患しているという計算になります。

実際に、これまでわたしが勤めてきた職場でも、股関節やひざ関節の手術後の痛みで困っている患者さんを担当する機会が多かったです。
そして、担当する患者さんがよく口にしていたことは「ひざを手術したあとも違和感を感じていたけれど、どのように対処すればよいかわからなかった…」「今後、痛みは悪化しないだろうか…」でした。
いまの日本では、股関節やひざ関節の手術後のサポート環境が、まだまだ十分ではないように思います。
手術をしたあとでも、生活を送るなかで関節に違和感や痛みが出てきて不安になる方もいるでしょう。さらには、アスリートの場合だと、競技復帰に向けて専門的にコンディショニングやトレーニングを受けたい方もいると思います。
そういった悩みなどを抱えている方々の受け皿が、全国的にもっと増えればいいなと感じています。
その役割の一端を担うために、股関節とひざ関節をメインとしたサービスをはじめました。
痛みの根本原因をお客さんの“人生”からひも解く
――どのように施術を進めていくのですか?
大野さん
まずは問診をていねいにおこないます。いまの生活状況や悩み、そしてこれまで悩みに対してどのような方法で対処してきたかなどをお聞きます。

さらには、手術歴や過去に骨折をしたことがあるか。そしてケガの有無、カラダを一定の姿勢でどれだけ酷使してきたかについてもヒアリングしていきます。
問診のあとは、姿勢をチェックしたり、どのような動作のクセがあるかなどをこまかく分析していきます。

姿勢や動作の評価が終わったら、問診も含めこれまでわかった情報を整理し「痛みを生み出した原因はなにか?」ということの見当をつけていきます。
そして、痛みの根本原因に見当がついたら、お客さんにもしっかりと説明するようにしています。
来院される方は、長年痛みに悩まされているため「なんで痛みがよくならないんだろう…」と、不安や疑問を感じていることが多いです。
そのため、痛みを引き起こしている原因を順序立てて説明し、お客さんが少しでも安心して施術を受けられるよう心がけています。

――痛みを生み出す根本原因は、どのようなところに隠れていることが多いですか?
大野さん
わたしは、痛みの根本原因はその人の“人生”に隠れていると考えています。
慢性的な痛みの場合、当然ですがいま出ている症状は昨日今日に出てきたものではありません。これまでの人生において、どのような過ごし方をしてきたかということに大きく関係しています。
たとえば50歳の方だったら、その50年でさまざまなイベントがあったと思います。仕事、子育て、趣味…そのなかでどのようなカラダの使い方をしてきたかを聞くことで、痛みの本当の原因がみえてくることもあるんですね。
そして、痛みの根本原因に見当がついたら、わたしのなかで改善までの道筋を立て、あとは一つひとつの機能をしつこく改善していきます。
ファシアをリリースして、全身の柔軟性と筋出力をアップさせる

――痛みの根本原因がわかったら、実際に施術にうつっていくと思うのですが、具体的にどのようなことをするのですか?
大野さん
わたしが施術でおこなうことは、ひとや症状にもよりますが、おもに「1.徒手でのファシアリリース」「2.コンプレフロスを使ったファシアリリース」「3.セルフケアの指導」の3つですね。
――「徒手でのファシアのリリース」とありますが、まずはファシアについて教えてください
大野さん
ファシアとは「膜・筋膜」を指します。筋膜というと「筋肉の表面を覆(おお)っている膜」というイメージがあるかもしれません。
しかしファシア(筋膜)は、筋肉だけでなく、神経や内臓、骨など全身を包み込んでいます。ゆえに、ファシア(筋膜)は「第二の骨格」ともいわれています。
そんなファシアの特徴のひとつに、関節を動かしたときに“周辺組織(筋肉や皮膚など)といっしょに滑る”ということが挙げれます。

ファシアの滑りが悪くなると、筋肉や皮膚の動きまで悪くなる可能性があります。そうすると、筋力が発揮しづらくなったり、カラダの柔軟性が損なわれてしまい痛みの原因につながることもあるんです。
――ファシア(膜・筋膜)の滑りを良くする方法のひとつとして、手を使ってリリースしていくのですか?
大野さん
はい。筋肉や皮膚を触らせていただいて、滑りが悪いファシアをみつけたら、その部分を手を使ってリリース(※解きほぐすこと)していきます。

場合によっては、ファシアリリースに適したツールなども使い、しっかりとファシアの滑りをよくしていきます。

――2つ目の「コンプレフロスを使ったファシアリリース」ですが、そもそもコンプレフロスとはなんですか?
大野さん
コンプレフロスとは、トレーニングやコンディショニングで使えるゴムバンドです。コンプレフロスを手や足などに巻きつけ、筋肉や関節を圧迫させた状態でカラダを動かすとファシアの滑りをうながすことができます。

――どうしてコンプレフロスを使うようになったのですか?
大野さん
はじめてコンプレフロスを使ったとき、その効果に衝撃を受けたからです。「こんなにも柔軟性がアップするのか」と。あとは、アスリートやご高齢の方など、幅広い方々に使えることも魅力のひとつでした。普段、さまざまな方に運動を指導する機会が多いため重宝しています。
余談ですが、今年の2月には台湾へ行き、コンプレフロスのマスタートレーナーの資格も取得してきました。よりお客さんに質の高い施術を提供していきたいと思っています。

――先ほどの「徒手でのファシアリリース」と「コンプレフロスを使ったファシアリリース」は、どのように使い分けているのですか?
大野さん
どちらもファシアをリリースすることに変わりはないのですが、コンプレフロスは広範囲のファシアを同時にリリースするのに対し、徒手でのファシアリリースでは特に気になる部分をピンポイントでリリースするイメージですね。
来院後もLINEで継続的にサポートし、二人三脚で改善を目指す
――3つ目、「セルフケアの指導」では何をお伝えするのですか?
大野さん
ご自宅でできる、お客さんの症状に合ったセルフケアの方法やトレーニングをお伝えします。
施術の効果を長期的に持続させるためには、やはりセルフケアは欠かせません。しかし多くの方は、日々忙しく過ごされているため、自分のカラダをケアすることをついついあとまわしにしがちです。
そのため、まずはセルフケアを“続ける”ことが大切だと思っています。わたしは、お客さんが気軽にセルフケアを取り組むことができるよう、あえてたくさんの種目はお伝えしません。
1つか2つ、その人にとって本当に重要な種目のみ厳選しておこなってもらいます。

――1つか2つならば無理なく続けることができそうですね
大野さん
そうですね。あとは、セルフケアのやり方をスマホで撮影して、わたしがポイントや注意点などを解説した動画をお渡しするようにもしています。
そして希望される方は、LINEでわたしに進捗状況を報告できたり、分からないことを質問したりすることもできます。

――来院後もLINEで相談できるのはお客さんも安心だと思います
大野さん
サロンに来院したときに教えたセルフケアの方法と、実際にお客さんが自宅でやっている方法が、少しずつ違ってくることがあるんです。
どんどん自己流になっていくとともに、セルフケアの効果が薄れてしまうケースがよくありました。そういったことを防ぐためにも、LINEで逐一報告をしてもらい「もうちょっと、ここはこうしてくださいね」みたいな感じで、間違ったやり方を正しい方法へと修正していくこともあります。
これまでの経験上、やはり正しい方法でセルフケアをした方のほうが、改善率も高かったんです。そのため、施術後に「あとは自宅でセルフケアをやっておいてくださいね」で終わるのではなく、その後も継続的にサポートしていきたいと思っています。
足元から健康を見つめ直していく

――そのほかには、どのような施術をするのですか?
大野さん
場合によっては、靴のアドバイスや、爪や角質などのフットケアをおこなうこともあります。
靴の選び方ひとつで、足の負担を軽減させたり、将来の足のトラブルを未然に防ぐこともできるんです。さらに、爪や角質をケアすることで、足の指の柔軟性も出せるんですよ。
――角質をケアするだけでも、足の指の柔軟性が変わるんですね
大野さん
角質ができると皮膚のつっぱりが出てしまい、足の指がすこし動きにくくなることもあります。足の指が動きにくくなると、姿勢や歩行に悪影響を与える可能性があるんですね。そのため、角質をケアすることで、足の指の柔軟性にアプローチすることもあります。

――手を使った施術や、コンプレフロスによるファシアリリース。そして靴のアドバイスやフットケアなど、幅広いアプローチをされるんですね
大野さん
これまでさまざまな分野の施術家と出会い、いっしょに仕事をしてきた経験がすごく生きています。施術やセルフケアにおいて、幅広い解決策を提案できることがわたしの強みだと思っています。
――ちなみに、関節の状態が悪く、施術では対応できない場合もあると思います。そのときはどうするのですか?
大野さん
関節の状態によっては、構造的にどうしても施術では対応できないケースがあります。その場合は、わたしが信頼する整形外科の医師をご紹介させていただいています。
トレーナーから理学療法士、そしてコンディショニングトレーナーへ

――なぜセラピストを目指そうと思ったのですか?
大野さん
実は、そもそもセラピストを目指そうとは思っていませんでした。
最初は体育教師になろうと思っていたんです。小学校から高校までサッカー部のキャプテンをしていたため、運動をすることやひとに何かを教えることが好きだったからです。
そのため、高校卒業後は愛知県の体育大学に進学しました。しかし、大学3年生のときに、体育教師の道をやめることにしたんです。
――どうして体育教師の道をやめることにしたのですか?
大野さん
大学3年生のときにフィットネスクラブでバイトをしていたのですが、そこでの出来事がきっかけです。
あるとき、息子さんに連れられて来た、75歳の女性を専属で担当させていただく機会がありました。その女性は、最初は足取りもフラフラしており、表情も明るいとはいえない状態でした。
しかし、3か月間いっしょに運動を取り組んだ結果、その女性ははじめて出会ったときとは見違えるほど元気になったのです。
姿勢よくスタスタと歩けるようになり、さらには階段を小走りでのぼれるようにもなりました。そしてなにより、笑顔が増えたことがとてもうれしかったですね。そのとき、自分のなかでなにかが熱くなったことを憶えています。
この感動が忘れられず「体育教師はやめて、トレーナーになる!」と決心したんです。しかし、トレーナーになるにしても、まず何をすればいいのかまったく分かりませんでした。そのため先輩に相談したら、話のなかで「理学療法士」という職業が出てきました。
そこで理学療法士についてさらに調べていくと、医学的な知識にもとづいた治療をしたり、動作の分析をしたりする専門家だとわかり「自分がやりたいことにマッチしている!」と感じたんです。
そのため、いまの体育大学を卒業したら、理学療法士の養成校に入り直すことに決めました。

――体育教師をやめて理学療法士になるとは大きな決断をしましたね。理学療法士の資格をとってから、現在に至るでの経緯を教えてください
大野さん
最初は地域のデイサービスに就職しました。その後、パーソナルトレーニングスタジオ「nano」さんや「まつした整形外科」さんなどを経て、2018年に「Physio fit」を開院しました。
大学生のときから「いつかは独立して、自分の力だけで勝負したい」と思っていたんです。そのため就職したあとも、深い知識や治療技術を身につけるために全国各地のセミナーへと足を運んでいました。
さらには、業界の著名な方々ともいっしょにお仕事をさせていただく機会にも恵まれ、貴重な経験を積むこともできました。
おかげさまで、すこしずつ自分の思い描く施術ができるようになり、同時にわたしの施術で喜んでいただける方が増えてきたため、妻の後押しもありコンディショニングトレーナーとして独立を決めたんです。
お客さんに全身全霊を傾けるために“準備”に命をかける

――施術家として大切にしていることは何ですか?
大野さん
来院してくださったお客さんに、全身全霊を傾けることです。数ある整体院のなかから、わたしのことを信じて来てくださる方を笑顔にしたい。
そのためには、とにかく準備をして臨むことが重要だと思っています。
――準備とは具体的にどのようなことですか?
大野さん
準備とは、普段から人格を磨くことを心がけたり、常に向上心を持って知識や技術を高めておく、ということを指します。
――お客さんと出会う前から、すべてがはじまっているんですね。準備を大切にするようになったキッカケはなんですか?
大野さん
あるときテレビで、「神の手を持つ男」と呼ばれている脳外科医・福島孝徳先生のドキュメンタリー番組を観ました。
福島先生は、その日の手術を終え疲れ果てても、自宅に帰ったら必ず今日の担当した症例を一人ひとり思い出しながら手術の絵を書き、うまくいったことや改善点などを復習されていたんです。しかも、研修医時代からずっとこの作業を欠かしたことがないと。
天才と呼ばれる福島先生でも、患者さんと向き合うために誰よりも準備を大切にされている姿に感銘を受け「わたしもそうありたい」と強く思うようになりました。
そのため、わたしも常に最善を尽くせるよう準備に命をかけ、お客さんに全身全霊を傾けるよう心がけています。
待つのではなく、届ける。それがセラピストであるわたしの役割
――最後に、今後のビジョンを教えてください
大野さん
現在、Physio fitでの施術以外にも、市の依頼でシニアの方を対象とした「介護予防教室」を開いたり、企業のオフィスに足を運ばせていただき運動指導をしたりすることも増えてきました。

そこで感じるのは、やはり運動不足やカラダの痛みを抱えている大人が多いということです。さらに世の中には、数え切れないほどのひとが健康で悩んでいると思います。
そのような方々をひとりでも救えるよう、これからも積極的に外部で講座を開催し、予防の大切さやトレーニング、セルフケアを多くの方にお伝えしていきたいです。そのためには、情報をみずから発信することも重要だと感じています。
ひとの健康を支援するのが、セラピストの社会的な役割だと思っています。そのため、不調の方がわたしの目の前に来るのを待つのではなく、セラピストであるわたしが、もっと積極的に健康で悩んでいる方々のところへ顔を出していきたいと考えています。
待つのではなく届ける、それがわたしの目標です。
編集後記
Physio fitでの施術や、シニア世代や企業の方々に対する運動指導など、幅広い活動で全国を飛び回っている大野さん。その活動を陰で支えているのが、“家族の存在”だと大野さんはおっしゃっていました。
「これからも多くの方々の健康を守りたい」とお話されていましたが、同時に「いちばん大切な家族を犠牲にしてまで事業を拡大するつもりはありません」ともまっすぐに答えていました。
家族やお客さん、そして自分。全員が幸せになる、そんな素敵な考え方を持つ大野さんを、今後も応援させていただきたいと思います。
大野 有三さんプロフィール
Physio fit(フィジオ・フィット)代表
1986年福島県生まれ。元々は体育教師を目指すも、大学3年時に理学療法士になることを決意。体育大学を卒業後に、理学療法士の養成校に入学し、医学的な知識やリハビリテーションの基礎を一から学び直す。理学療法士の資格を取得後は、デイサービス、パーソナルトレーニングスタジオ、整形外科での勤務を経て、2018年に愛知県名古屋市でコンディショニングサロン「Physio fit」をオープン。現在は、シニア向けの介護予防教室や、企業向けの運動指導など、さまざまな方々の健康を支える活動もしている。著書に、日本初のコンプレフロス公式マニュアル『イージーフロッシングマニュアル』がある。