「特異性の原則ってなに?」

“特異性(とくいせい)” という言葉を聞いただけで、なんだかむずかしく感じますよね。

そこで今回は、特異性の原則について、例を挙げながらできる限り分かりやすく解説していきます。

1. 特異性の原則とは?

トレーニングの8つの原則
※諸説あります

トレーニングの原則の1 つである「特異性の原則」

特異性の原則
とは、トレーニングの効果は “運動様式に依存する” ことをいいます。

いきなり「?」が浮かんだかもしれませんね。
具体例を使ってご説明します。

たとえば、長距離を走るなどの持久系のトレーニングをするとします。
そうすると当然ですが、瞬発力ではなく持久力がアップしやすいです。

逆もしかりで、ダッシュなどの瞬発系トレーニングをしたら、持久力ではなく瞬発力がつきやすくなります(※)

アスリートの場合は、瞬発系のトレーニングを1度の練習でたくさんおこなうことが多いため、同時に持久力も上がってくるケースもあります。

これが、特異性の原則である「トレーニングの効果は “運動様式に依存する” 」ということです。

では、なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

それは、カラダには、おこなった運動に合わせて “生理的な変化““適応” が起こるメカニズムが備わっているからです。

要は、与えられた刺激にカラダが慣れていってしまうんですね。

さて、大まかに特異性の原則をお伝えしてきましたが、よりトレーニングで生かしていくためには、次の3点の特異性も知っておく必要があります。

1.筋肉の収縮様式からみた特異性


2.負荷様式からみた特異性


3.動作様式からみた特異性

次の章で、それぞれ解説していきますね。

1-1.筋肉の収縮様式からみた特異性

筋トレをする際、重さや回数、セット数を意識する方は多いと思います。

しかし、筋肉の収縮様式を考慮して、筋トレのやり方を選択していく必要もあるんです。

「どういうこと?」と疑問に思う方もいるかもしれませんので、まずは筋肉の収縮様式から確認していきましょう。

筋肉は主に、以下のような3種類の収縮様式があります。

筋肉の収縮様式

・求心性収縮(きゅうしんせいしゅうしゅく)
・遠心性収縮(えんしんせいしゅうしゅく)
・等尺性収縮(とうしゃくせいしゅうしゅく)

求心性収縮(きゅうしんせいしゅうしゅく)

大腿四頭筋の求心性収縮

求心性収縮とは、筋肉の長さが短くなりながら収縮することです。

たとえば、スクワットでひざを曲げた状態から伸ばしていくときは、太ももの筋肉である「大腿四頭筋」短くなりながら収縮しています。
これを求心性収縮といいます。

遠心性収縮(えんしんせいしゅうしゅく)

大腿四頭筋の遠心性収縮

遠心性収縮とは、筋肉の長さが伸びながら収縮することです。

たとえば、スクワットでひざを伸ばした状態から曲げていくときは、大腿四頭筋は伸びながら収縮しています。
これを遠心性収縮といいます。

等尺性収縮(とうしゃくせいしゅうしゅく)

大腿四頭筋の等尺性収縮

等尺性収縮とは、筋肉の長さを一定に保ちながら収縮することです。

たとえば、空気イスをしているときは、大腿四頭筋の長さは変化せずに収縮しています。
これを等尺性収縮といいます。


これら3 つのうち、たとえば求心性収縮ばかりのスクワット(ひざを曲げた状態から伸ばす)をしていると、求心性収縮が上手になっていきます。

しかし一方、遠心性収縮や等尺性収縮はあまり上手になりません。

なので、もし「自分は大腿四頭筋の遠心性収縮が必要だな」ということを感じたら、ただやみくもにスクワットをするのではなく、大腿四頭筋の遠心性収縮を重点的にしないといけないのです。

このように、自分にとって必要な収縮様式を把握し、正しい筋トレのやり方を選択していく必要があるんですね。

1-2.負荷様式からみた特異性

負荷様式からみた特異性

筋肉への負荷のかけ方によっても、筋力(筋肉が持つパワー)がアップしやすかったり、筋肥大(筋肉が大きくなること)がしやすかったりと変わってきます。

たとえば、筋力を上げたいときは、1RM(全力で1回できる重さ)の80%以上の高負荷で筋トレをした方がいいと言われています。

たとえば、ベンチプレス100kgが1RMならば、80kg以上の重さは必要ということです(※実際には、回数とセット数、運動スピードなども考慮する必要があります)。

一方、筋肥大を目指したいときは、1RMの70%以上の高負荷で筋トレをすることを勧められています。(※実際には、回数とセット数なども考慮する必要があります)。

しかし最近の研究では、低負荷の筋トレでも、運動回数を増やし疲労困憊までおこなうことで、高負荷の筋トレと同等の筋肥大の効果が得られるという報告もあります。

このように、筋トレの負荷のかけ方についても「筋力を上げたいのか?」「筋肥大をしたいのか?」と、自分が達成したい目的を明確にしたうえで決める必要があります。

1-3.動作様式からみた特異性

動作様式からみた特異性

これはカンタンにいうと「ある動作の筋力をアップさせたいなら、その動作と同じ動作のトレーニングした方がいい」ということです。

たとえば、ジャンプ力を上げようとします。
その際に、太ももの筋力を鍛えようとスクワットだけをやるよりも、実際にジャンプの練習もした方がいいということです。

誤解を与えないようにお伝えしておきますが「筋トレがダメ」と言っているわけではありません。
「筋トレのみ」があまりオススメできないのです。

なので今回の例でいうと、筋トレと実際の動作(ジャンプ)を組み合わせた方が、よりジャンプ力のアップが期待できるということです。

2.まとめ|トレーニングでは特異性の原則を意識しよう

特異性の原則について、理解することはできましたでしょうか?

特異性の原則はトレーニングの基礎であり、運動効果を得るための重要な原理原則です。

もしこれまで、ただやみくもにトレーニングをしていたのならば「自分が達成したい目的」から大きく外れているかもしれません。

なので、今回紹介した特異性の原則の考え方を、ぜひ日々のトレーニングに取り入れていただけると幸いです。

もしかしたら、今までおこなっていたトレーニングのやり方やメニューがガラリと変わるかもしれませんよ。

そして特異性の原則は、以下の記事で解説している「過負荷の原則」とも密接な関係があります。
両方を意識してトレーニングをおこなう必要があるので、ぜひご確認ください。



これまでお伝えしてきた内容を参考にして、よりよい運動プログラムを選択していただけたらと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

参考文献

・市橋則明(編):運動療法学.p176-177,文光堂,2008.
・麻見直美,川中健太郎(編):栄養科学イラストレイテッド 運動生理学.p26-27,羊土社,2019.